遺言書はラブレターの最近のブログ記事

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遺言書はラブレター(1)
『遺言書には愛を込めて』

私は仕事柄、もうすぐご病気や天寿を全うされて亡くなる方、
あるいは、大切な方を亡くされたばかりの方の話を
お聴きすることがあります。

人生の物語の聞き手として、私はその方たちの前に立ちます。

考えてみれば「遺言書」というキーワードからすると、
遺言書を渡す方と受け取る方にほぼ同時にお会いしていることになります。

中には「どんなふうに遺言書を書けばいいか」と
意見を求められることもあるのですが、
そんな時は決まって「愛をこめてください」と申し上げています。

では「愛をこめる」とは、具体的にはどういうことでしょうか。
「愛のこもった遺言書」って、なんでしょうか。

少し胸が痛いかもしれませんが、お願いしてみます。

『想像してみてください。あなたがこの世にいないことを』

遺された方は、まるで懐かしい大好きな歌を口ずさむように、
あなたのことを思い出します。

そんなときに、あなたが書いた日記や手紙を必ず読み返します。
時には涙を流しながら、その書かれたものや遺されたものを、
まるであなた自身のように愛おしく思います。

そう、遺したものは、あなた自身なのです。

たとえばこんなことがありました。
ある兄弟のお話です。
兄は家族(妻と娘ひとり)でお母様と同居し、
弟は独身で、別に家を構えておりました。
お母様が癌になり、自宅で介護するということになったとき、
兄は家族全員で協力し、最期の時まで寄り添いましたが、
弟は仕事が忙しいこともあり、時々お見舞いに来るのがやっとで、
最期の時に間に合いませんでした。

お母様が亡くなり少し時間がたつと、兄の妻がこう言いました。
「あなた、お金の件は大丈夫?」
葬式や、お墓のことなど出費がかさみますので、
奥さまは心配に思ったのでしょう。
兄は思います。そうだ、母が残した財産があった。
これはどう分けたらよいのだろう。
貯金だけならわかりやすいですが、
財産とは、土地や家などの不動産や有価証券、
所有されていた金銭的に価値の高い美術品なども含まれています。
それを弟と分けなければならない。
ここから、兄と弟の話し合いが始まります。
この話し合いが、なかなか難しいのです。
兄の立場からすれば、最期まで寄り添い、
家族も協力して介護した自分が、
弟よりも多く財産を相続することが当然だと考えています。
正直な気持ちを言えば、弟が相続するものは0ではないにしても、
非常に少なくてよいと考えています。
しかし、弟は違います。
法律上では、兄と弟は同等の権利を有するもので、
財産も二等分するべきだと訴えます。
そして、兄がそれを渡してくれないのであれば、
自分がもらうべきものを渡してもらえるように
家庭裁判所に訴えると言い始めました。
弟は、同居していた兄が、母から小遣いをもらい、
金銭面でのサポートが度々あったのを知っていました。
兄は母からそれだけ気にかけてもらっていたのに、
自分はそうではないと悲しい気持ちになっています。
そしてついに、カインとアベルさながらの、
乱暴な言葉も飛び交う兄弟間の喧嘩が始まってしまいました。
あなたは、この兄と弟、どちらが正しいと思いますか。
私はお話を聴いて、正直、どちらが正しいのかわかりませんでした。
あるいは、正しさにはあまり意味がないと思いました。
法律は、トラブルを解決するために利用するものであって、
トラブルを解決してはくれません。
トラブルを解決するのは、生身の人間なのです。
どちらが法律的に正しいか、といえば、弟の言い分はもっともです。
しかし、弟の言い分通りに財産を分けたら、兄や、兄の家族は納得するでしょうか。
おそらく難しいでしょう。
では、弟が兄の意見通り、財産をほとんど相続しないように、
手配してしまったらどうでしょうか。
弟は納得しないでしょうし、兄弟間の亀裂は深まり、
これから一生仲良くなれないかもしれません。
この兄弟の場合は、途中から兄嫁も参戦し、
弟は弁護士もつけて、話はどんどん泥沼化してゆきました。

ところが3か月後、二人の間に大きな変化が起こります。

大喧嘩も行き詰ったときに、出てきたのが
日記に挟まれたお母様の手紙でした。
兄と弟へ、それぞれ一通ずつありました。

兄への手紙は、こう書かれていました。

義久(兄・プライバシーを守るため仮名です)さま
あなたは昔から優しいお兄ちゃんだったね。
体が弱いのが心配だったけど
小さいときから考えると、義久はずいぶんと健康になって
とても安心です。
ユキちゃん(兄嫁)のご飯がいいのネ。
大切にするのよ。
追伸
幸くんのお嫁さんも、早くみつかるといいのにネ。
義久の友達にいないかしらネ?

弟への手紙には、こう書かれていました。

幸さま
小さいときからあなたはしっかり者で
病気もあまりしないし、心配することがなかったのだけれど
お母さんは、今は幸のほうが心配です。
お嫁さんが早くみつかるようにと祈っています。
あまり選り好みしないで、優しくて、
幸くんを大切にしてくれる人にしなさいね。

この手紙を読んで、二人は泣いてしまったそうです。
そして、兄は弟に、弟は兄にと、母親の手紙を見せ合いました。

この時から、二人の喧嘩は一気に収束に向かいます。

兄と弟は話し合い、土地と家、そして有価証券は兄が相続し
弟は、葬式やお墓の費用を支払後、残った貯金の三分の二を相続し
残った三分の一は、今後お墓にかかる費用にあてよう、
ということになりました。

非常に晴れやかな顔で、お兄様はこう言いました。
おふくろの財産は、おふくろのものだってことを忘れていたんだ。
それに、弟と仲良くしてほしい、ということが、おふくろの願いなら
それくらいは守らないといけないなと思ったんだ。

弟さんは、涙を浮かべてこう言いました。
おふくろは、自分のことを最期まで心配していたのかと思ったら
本当に悪かったと思ったと同時に、正直嬉しくもあったんだ。
あまり話すことがなかったけれど、
そんなに気にかけてくれていたのかと思って。
そしたら、もうあまり財産がどうとか、考える気がしなくなっちゃったんだよ。

お母様の手紙には、財産のことは一言も書かれていません。
ですから、公的な遺言書としての効力は特にありません。
でもそこには、息子たちへの気持ちが込められていました。
兄へは信頼とお願いというかたちで、弟へは心配と愛情というかたちで。

二人が納得したのは正しさでも平等でもありません。
心を動かしたのは、自分はお母さんから信頼されていたという証であり、
愛されていたという実感です。

もう一度、申し上げます。
遺言書には愛をこめてください。
何も、無理に優しい美しい言葉を使う必要はありません。
あなたらしい言葉で、方法で、大切な方に、
大切に思っていることが伝えようとすればそれでいいのです。

次回も引き続き、遺言書にまつわるエピソードをお話しさせていただきます。
このお話が、あなたやあなたの大切な方の、
何かお役に立てたなら、とても幸せです。

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